【2022年度版】BtoB-EC市場規模|EC化率は35.6%に成長@経済産業省
市場調査というと、「専門の会社に委託するもの」「それなりの費用がかかるもの」という認識が一般的ではないでしょうか。そのコストを敬遠して、業界紙の新聞記事や業界団体のオープンデータを利用した、内製化による調査が主流という会社も少なくないと思われます。今回はBtoBビジネスにおいて、顧客企業のニーズはもちろん、市場や競合についての情報を整理・分析する方法をご紹介します。
あらためて認識、市場調査の必要性
現在、市場調査に力を入れている会社も、そういう活動を一切せずに実績を残してきた会社も、市場調査の存在意義・必要性について再考してみましょう。
市場環境やニーズの変化は速まっている
経済活動があるところに市場調査のニーズがある、といっても過言ではありません。適切な経営判断を誤るリスクを最小限にするための市場調査の必要性を理解しつつも、経営層の直感やアイデアで会社の方向性を決める場面に心当たりはないでしょうか。しかし、近年では下記3点の理由で企業規模に関係なく市場を知ることの必要性が高まっているといえます。
- ここ数年、市場の変化の速度が速まっている。
- 同業他社のみならず、業界を越えた競合も増えつつある。
- ICTや最新テクノロジーが事業の優劣を左右する割合が大きくなっている。
時代とともに変化しているのは消費者であり、市場調査は消費者のニーズや変化を探るもの、という考え方が根強いと思います。しかし、消費者に商材を販売する企業に部材やサービスを提供するBtoB企業もまた、その影響下にあるのです。今後は、社会の変化がビジネスに大きな影響を及ぼす傾向が強まると予想できます。その変化を捉える手段が市場調査なのです。
BtoBのビジネスでも顧客企業を知ることは重要
「コモディティ化」という言葉に代表されるように、商品は価格や機能だけでの差別化が難しくなってきました。商品がそうならば、その部品を作る会社も、そこにサービスを提供する会社も差別化が難しくなると言えます。そして、価格や機能の強化・差別化競争は、努力の割に結果が報われず、疲弊につながる悪循環となりかねません。
その一方で、情緒的なコミュニケーションを重視する「接待営業」のようなスタイルも、世代の交代とともに効果が薄くなってきています。「足しげく通う営業」も、リモートワークの時代では、これまで商談で得ていた情報をネット経由で入手するようになり、「対面による商談」の時間が減りつつあります。主要な営業手法が移り変わり、情緒的なコミュニケーションの割合が減っていくことで、BtoBビジネスはよりいっそう合理的に取引先を選定するようになっていくかもしれません。
つまり、その合理性に応えるために、顧客のニーズを知り、それに対応した体制を構築することや、顧客満足度の低下を防ぐ戦略がより重要になっていくと考えられます。これは新規取引先の開拓でも同じです。「相手企業を知る情報」(顧客調査)、「相手のビジネス環境を知る情報」(市場調査)は、やはり欠かせないものになっているのです。
市場調査の方法と進め方
続いては、基本的な市場調査の進め方について見てみましょう。
一次データと二次データ
「一次データ」は、あるテーマに対して当事者から直接情報を取得する目的で、企画・実施される調査から得られたデータを指します。アンケート調査による顧客調査、取引先の担当者にヒアリングしてニーズを聞く方法などがこれに当たります。目的が明確になるため、求めている情報を取得できる確率は高くなりますが、社員や委託会社が活動するコストが発生します。
「二次データ」は、すでに存在しているデータを使って、調査目的に則した分析をするためのものです。政府の経済統計、業界団体の産業統計、シンクタンクや銀行、調査会社などが発表する自主調査結果、新聞の記事のほか、自社にある販売データや顧客情報、ときにはクレームの記録なども二次データとして利用できます。
一般的には、コストがかかる一次データの取得から始めるのではなく、社内にある販売データや顧客データ、業界統計などの二次データの分析を経て、それを補う意味で一次データの取得に進みます。
二次データは社内の購買データなどの分析も含む
すでに触れているように、既存の二次データは、「外部データ」(政府統計、産業統計など)と「内部データ」(売上管理、顧客管理の情報など)に分類できます。近年は、CRM(顧客管理)で顧客満足度の向上に努めたり、クロスセリング(類似商品の推奨、販売)やアップセリング(上位商品の推奨、販売)といった販促活動に顧客の購買データを活用したりするのが一般的になりました。
さらに、企業内にある膨大なデータから有用なものを見つけ、AI(人工知能)で大量に処理して事業や経営に役立てる、という考え方も注目されています。なかでも顧客の購買データは、その動きを分析することで、顧客ごとの購買状況や次の購入のタイミングを予想し、関連商品の販促などに活用するという、分析と販売を同時に行うこともできるのです。
販売チャネルからの情報も有用
上記データに加えて、販売チャネルごとに取得できる顧客情報なども二次データとして市場調査に活用することができます。代表的な販売チャネルと、そこから得られるデータについて説明します。
- ウェビナー(オンラインセミナー)
参加者の記録やアンケート結果、取得した連絡先情報。質疑応答の記録など。 - コールセンター
問い合わせ商品の種類と内容、クレーム、資料やカタログの請求・発送記録など。 - 自社の店舗・営業所
対面営業、電話営業の記録、購買記録のデータ、見積依頼記録のデータ、要望やクレームの内容、顧客企業の組織や人事の変更・業績・利益などの情報など。 - 修理・保守などのサービス
商品ごとの保守点検の記録、修理依頼の内容と時期など。 - Webサイト・SNS
アクセス記録、問い合わせ内容の記録、要望の記録、SNSの賛同などのアクションやコメント、友人への推奨などの記録データなど。 - ECサイト
登録情報、閲覧履歴、購買データ、問い合わせ内容、利用頻度、商品・ジャンルごとの売上の推移など。
市場調査のためのデータ分析方法
続いては、データの分析に使えるフレームワークについてご紹介します。
4C分析
この分析における4つの「C」は、次のようになります。それに対する解決策(ソリューション)を知ること、提供する手段を考えるための調査・分析が該当します。顧客・自社・競合の観点で分析する3C分析の「Customer」(顧客)の視点での調査や分析に当たります。
- Customer value(顧客価値・課題解決)
顧客は自分が求めているもの、改善してほしい課題などのニーズを充足されることに価値を感じます。 - Cost(顧客の支払費用)
そのニーズが満たされるための費用の許容範囲、望ましい費用感、過去の費用実績などについて調査・分析します。 - Convenience(購買などでの利便性)
必要な商品・サービスであり、価格が手頃であっても、入手できる場所が物理的に遠い距離にあったり、手続きが複雑だったりするようでは、利便性の点で課題が生じます。現在の商品はそのままに、購買スタイルをより利便性の高いものに変える方法の考察なども含まれます。 - Communication(顧客とのコミュニケーション)
必要としている情報の提供をはじめ、顧客そのものの状況の理解力、差別化なども含まれます。
よく耳にする「4P」は、同じものを企業の視点で表したものです。「4C」のCustomer Value(顧客価値)には「4P」のProduct(商品)で対応します。同様に、Cost(顧客費用)はPrice(価格)、Convenience(顧客利便性)はPlace(流通)が解決主体となり、Communication(コミュニケーション)はPromotion(プロモーション)がその役割になると解釈されます。
SWOT分析
次の4つの単語の頭文字で表されています。分析するときは、社内はもちろん、取り巻く環境のプラス要因、マイナス要因についても把握しておく必要があります。そのためのフレームワークです。
- 内部環境としてのStrength(強み)
商品・技術の開発力、生産能力、供給能力、ブランド力などで「強み」となるものの洗い出し。 - 内部環境としてのWeakness(弱み)
商品・技術の開発力、生産能力、供給能力、ブランド力などで「弱み」となるものの抽出。 - 外部環境としてのOpportunity(機会)
市場の成長性、新しい商品やサービスを求める市場の動きなどの把握。 - 外部環境としてのThreat(脅威)
競合企業の参入、新しい商品やサービスの登場による代替などの危険性について知る。
社内に技術力や生産能力、販売実績があったとしても、その商品が近い将来、新しい技術や新製品に代替される危険性がある場合は、事業としてのリスクを考えなければならないことになります。
5フォース分析
ハーバードビジネススクールで、マイケル・E・ポーター教授により提案された、事業環境を5つの競争要因に分けて分析する手法です。企業の事業にとって、常に自社を脅かす存在は敵対する「競争業者」です。常にその動きに注意していなければなりません。近年は、次の5つのような周辺環境の動きにも気を配らなければならなくなりました。
- 競争業者
自社の事業や活動している市場で競合となる対象です。競争業者が強い立場になると、自社の活動にマイナスの影響を及ぼすことになります。 - 売り手
商品などを販売する際の部材の仕入れ先に該当します。供給不足が生じたり、供給側が限定されたりすると、不利な交渉や高めの仕入れなどに応じなければならなくなり、競争上のマイナス要因となります。 - 買い手
顧客に該当します。価値観が変わる、ある商品を必要としなくなる、価値を感じなくなる、給与水準の下降による購買力が落ちるなど、自社の競争力に好ましくない影響を及ぼすことになります。ブランドチェンジ、商品購入のスイッチングがしやすい環境でも買い手は優位な立場になります。 - 代替品
固定電話に替わる携帯電話のように、新技術や新商品の登場により、これまでの価値が脅かされ、競争力に悪い影響を及ぼすことになります。 - 新規参入業者
同業他社として認識していた企業以外の参入のように、ほかの業界からの新規参入などが該当します。家電が情報化することで、ICT業界から家電市場に参入する、などが例として挙げられます。
BtoB ECから取得できるデータの分析でわかること、できること
これまで、対面でやり取りするから得られる定性情報が重要視されてきました。事実、そうした肌感覚の意見と購買履歴をかけ合わせることで見えるものがあります。一方で、定性情報は社内共有がされにくい、データの分析が難しいという側面もあります。
そこで、ひとつの解決方法となるのが、自社の販売チャネルとして、企業間取引のECチャネルを持つことです。ECの場合、顧客の購入履歴はもちろん、購入に至るまでのプロセスとして、「どのWebサイト(または広告)から自社のWebサイトにアクセスし、どういったページを経て購入に至ったか」、あるいは「途中で離脱したか」などの動きを、データから把握できます。
顧客ごとの購入商品と金額、購入の時期、過去の履歴など、事前の購買行動に関わるデータがあれば、企業規模や地域、業種ごとの大きな流れの把握から、顧客企業ごとの傾向まで、すべて理解できるようになります。これも一つの市場調査活動です。
まとめ:フレームワークによる分析と内部データ分析の両輪で臨む
市場の調査・分析を行う際は、自社の実情や既存顧客について知ることも、並行して行う必要があります。内部データを有効利用(市場調査)することで、顧客のニーズを理解でき、取引が減少することの予防などにつなげられます。顧客の活動を時間軸で捉えられれば、タイミングのよい情報提供により顧客満足度が向上し、売上拡大の機会も増えると期待できます。いつ、誰が、どんな目的で、何を購入したのか、そのとき何を一緒に購入したのか、それらの販促メールとの関係性などを分析するには、購入情報のデジタル化が必要です。EC化はその一つの手段となります。市場調査・分析のフレームワークによる調査・分析とともに、顧客について、踏み込んだ分析をしておきたいものです。
参考:
1次データと2次データの違いとは?マーケティングリサーチの情報源|ビジネスの教科書